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岐阜地方裁判所 昭和28年(ワ)7号 判決 1961年10月16日

原告 杉山栄次郎

被告 各務原土地区劃整理組合

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「一、被告が昭和二七年七月二十五日なした、原告所有の別紙目録記載第一、第二の各土地につき、換地を交付せず金銭清算をする旨の総会決議は、無効であることを確認する。

二、被告は右第一、第二の各土地の換地として、別紙目録記載第三の土地のうち別紙図面イ、ロ、ハ、ニ、チ、リ、イを結んだ部分千百九十坪九合四勺を、原告に交付せよ。

三、被告は、昭和二十七年九月一日岐阜県知事に対してなした、被告各務原土地区劃整理組合の換地処分認可申請のうち、右土地を原告に交付した旨の換地変更認可申請を右知事に対してなせ。

四、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は、被告組合の土地区劃整理地区内に別紙目録記載第一、第二の各土地を所有するもので、被告組合の組合員であるが、被告組合は、昭和二十七年七月二十五日の被告組合総会において、「原告所有の右各土地につき、耕地整理法第三十条第二項該当、規約第三十条第三項により換地を交付せず、右第一の土地については、金九千三百八十九円八十四銭、右第二の土地については金七千百二十二円五銭の各価格で金銭清算をする。」との決議を含む整理地区内土地全般に亘る換地処分の決議をなし、同年九月一日岐阜県知事に対し、該換地処分認可の申請をなし、同知事は同年十二月十五日付でこれを認可した。

二、しかしながら右総会決議には、次の如き瑕疵があつて無効である。

(一)、組合総会が適法に成立するには、総組合員の過半数が出席し、かつ組合員が整理地区内で所有する地積の三分の二以上の地積を所有する組合員が出席することを必要とするところ、右決議はこの法定要件に違背した瑕疵がある。

(二)、更に耕地整理法第三十条第一項、第二項及び被告組合規約第三十七条第一項によれば、土地の金銭清算は換地交付地積が僅少であつて一つの宅地をなすに足らない場合等異例の場合にのみ許されるものであるが、被告は先に原告に対する土地使用区域を別紙目録記載第三の土地のうち別紙図面イ、ロ、ハ、ニ、チ、リ、イを結んだ部分千百九十坪九合四勺とする旨仮指定し、昭和十八年十一月五日この旨原告に通知してきたもので、かく広大な土地につき、使用仮指定をなしたところからみても、本件の場合は金銭清算をなしえないことが明らかであるから、原告の右各土地に関する総会決議はその内容においても瑕疵がある。

よつて右総会決議中、原告の権利を害する範囲でその無効であることの確認を求める。

三、次に被告組合は前述の如く原告に対して土地使用区域の仮指定をなしたが、かかる仮換地が行われるとその段階で、既に仮換地上の原告の権利は潜在的に決定され、本換地決定のための組合総会は単に右仮換地の結果を確定するに過ぎない手続であるから、仮換地の決定に反する決定はなしえず、これをなすには先になされた仮換地の変更の手続をなし、しかる後に本換地決定手続をなさねばならないが、これを経ない本件では、被告において、仮換地によつて定めた使用仮指定地をそのまま原告に対して交付し、かつ被告が、昭和二十七年九月一日岐阜県知事に対してなした前記認可申請につき、右使用仮指定地を原告に交付した旨換地変更認可申請をなすべき義務がある。よつて原告は被告に対し右義務の履行を求める。

被告の抗弁に対する答弁として、「被告主張の抗弁事実はいずれも争う。

一、被告組合が既に解散して清算事務の終了届をしているとするも、本訴の係属中にかかる終了届をすること自体が違法であるから、結局被告組合は消滅の効果を有しない。

二、本訴は耕地整理法が準用されること以前の組合の行為の無効を前提とするものであつて、訴訟の許されることは明らかである。

三、原告は昭和二十七年十二月十五日付岐阜県知事の本件決議認可に対して、同月二十七日異議の申立をなし、その後日ならずして本訴を提起したのに、被告はこの事実を知りながら解散事務を急ぎ、その清算事務を結了したものであるから、たとえ事実上被告組合が消滅していても、かかる経緯の下においては本訴の利益は失われていない。又本件組合総会における決議は全部無効であつて、一部の無効ではないが、原告はただ自己に利益のある範囲で無効確認の請求をなすもので、かつ原告において交付を要求する別紙目録記載第三の土地のうち別紙図面イ、ロ、ハ、ニ、チ、リ、イを結んだ部分は、前述の如く一旦原告に仮換地せられた後、そのまま被告より訴外川崎航空機工業株式会社に売渡されたもので、利害関係人が多数あるわけでもないのであるから、原告のために換地の変更をすることは、他の換地上に何らの影響はなく本訴請求による原告勝訴の判決はその執行が容易である。又換地処分に対する知事の認可及び公告なるものは、本件総会決議につき、無効を確定した上で、被告がこれに応ずる措置を採らない場合には考慮すべきであるかも知れないが、現段階としては右認可及び公告に触れずに総会決議の無効確認を求める利益がある。以上の次第であるから本訴はいかなる点においても訴訟の利益を有している。

四、原告は、別紙目録記載第一、第二の各土地を訴外川崎航空機工業株式会社に売渡したことはない。尤もその後昭和二十二年八月三日これを訴外安田滋に売渡したが、登記簿上の所有名義は原告であるから、原告が組合員であることに変わりはない。一と述べた。

被告訴訟代理人は、本案前の申立として、「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を、本案の申立として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本案前の抗弁として次の通り述べた。

一、被告組合は昭和三十一年四月三十日解散し、同年五月二十九日その旨岐阜県知事から岐阜県公報第三千三十四号岐阜県公告三百三十七号を以つて告示され、かつ現在解散による清算事務も結了し、その届もし、被告組合は消滅しているから、本訴は実在しない被告に対するもので不適法である。

二、土地区劃整理法から準用される耕地整理法上の異議は、同法第六条の場合以外は許されず、かつ訴訟も許されないから本訴は不適法である。

三、仮りに被告組合が未だ消滅していないとするも、被告組合は解散をして、清算事務を終了している以上、本訴は被告組合地区内の土地全部について一体としてなされた換地処分中その一部の無効確認並びに右換地を変更して千坪以上の土地を交付すべきことを求めるものであるが、換地処分は組合地区内の総ての土地の換地を有機的に決定するものであるから、その一部でも又一筆でも変更するときは全部の土地に影響を及ぼし、到底原告主張の部分だけの一部の修正はできなく、たとえそれができるにしても数ケ年の年月と多数の事務員の執務や専門家のこれに対する指導と監督を要するから、被告組合のかような行為を求める訴訟につき、原告勝訴の判決があつてもこれを執行することはできない。又本件総会決議は昭和二七年十二月十五日付で知事の認可があり、同月十六日付で岐阜県公報をもつて告示されて確定しているから、本訴により原告勝訴の判決があるも知事の認可と公告の取消がなされない限りなんら法律上の効果は変更されない。以上の次第であるから、本件訴訟はその利益がないことが明らかである。

四、原告が所有すると主張する別紙目録記載第一、第二の土地は、昭和十七年三月一日原告から訴外川崎航空機工業株式会社に売渡されており、仮にそうでないとするも同二十二年八月三日再度原告から訴外安田滋に売り渡されており、原告はその所有者でなく、従つて被告組合の組合員でないから、本訴につき当事者適格を有しない。

五、本件組合総会決議による換地処分は知事の認可及び公告並びにこれに基く被告組合地区内の土地全部につき登記事務も完了して既に五年余を経過しているのに、今更この換地処分を変更するならば、取引の安全は破壊され収拾がつかなくなるから、本訴は訴権の乱用であるといわねばならない。」と述べ、

本案の答弁並び、に抗弁として、「原告主張事実中、原告主張の日にその主張のような組合総会決議をしたこと、右決議に基き原告主張の日に、被告において岐阜県知事に対し認可の申請をし、同知事がこれを認可したことは認めるが、その余の事実は争う。

一、原告の本訴における各請求は前記本案前の抗弁として述べた事実に照らしてみれば、被告組合において履行すること能わざる行為を求めるもので、その請求自体失当である。

二、仮りにさうでないとするも、被告組合の組合員総数は八百四十九人でその地区内の整理総地積は五十二万四百三十六坪一合八勺であり、本件組合総会には組合員五百六十一人が出席し、かつ該出席組合員の所有する地積は三十七万三千六百七十一坪一合九勺であつたから、総会の法定要件は充足されている。

三、別紙目録記載第一、第二の各土地は、本件総会決議当時原告から訴外川崎航空機工業株式会社に売渡されており、右両者から被告にその旨通知せられ、かつ原告から右各土地については、金銭清算をされたい旨申出があつたので、原告に対しては使用土地の仮指定はなさず、右申出通りに金銭清算をしたものである。」と述べた。

立証として、原告訴訟代理人は、甲第一号証、同第二号証の一ないし五、同第三号証の一ないし十、同第四号証、同第五号証の一、二、同第六ないし第九号証、同第十号証の一、二、同第十一、第十二号証、同第十三号証の一、二、同第十四、第十五号証を提出し、証人清水信一、同高橋市太郎の各証言及び原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告訴訟代理人は、乙第一ないし第五号証(但し、同第三号は欠番)同第六号証の一、二を提出し、証人近藤正則、同水野源之助の各証言及び被告組合代表者水野善吾の本人尋問の結果を援用し、甲第二号各証及び同第十三号証の一、二の成立を否認し、同第十四号証第十五号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

第一、本案前の被告主張に対する判断

一、被告は、被告組合が昭和三十一年四月三十日解散し、清算届も既に結了し、当事者能力を喪失したと抗弁するが、一般に法人は清算の範囲内でなお当事者能力を有するものであるところ、被告は本訴係属後に解散したものであり、本件紛争の解決も清算の範囲内に属すると解するのが相当であるから、その後になされた被告の清算届は違法且つ無効であるといわざるを得ない。よつて被告組合はその限りにおいて当事者能力を有すると認められるので、右主張自体が失当である。

二、被告は、土地区劃整理法から準用される耕地整理法上の異議は、同法第六条の場合以外は許されず且つ訴訟も許されないから、本訴は不適法であると主張するが、そもそも同法条は、行政庁に対する異議申立について規定されたものにすぎず、訴提起が許されるか否かについては、別に具体的権利関係の紛争として解決する利益の有無によるべきである。されば本件組合決議は、土地所有者の具体的権利に直接影響を生じさせるものであるから、右決議無効確認の訴を提起する権限を有するものと認められるべきは当然である。よつて右主張は理由がない。

三、被告は本件組合決議の一部無効の主張は許されないと主張するが、いやしくもその決議が一部であれ無効である以上、それを主張することは、利害関係人の当然の権利であつて、その後の措置の難易は問題とされるべきではない。(最判昭和三十五年十一月二十九日、集第十四巻第十三号、二千八百八十三頁)又被告は、被告組合の本件決議につき、知事の認可、公告がなされた以上訴の利益がないと主張するが、紛争の根本的法律関係を確定して爾余の争いを一掃する意味で、本訴請求はなお利益があると認められるので、右主張はすべて理由がない。

四、被告は別紙目録記載第一、第二の土地が訴外川崎航空機工業株式会社の所有に属し、仮にそうでないとしても訴外安田滋に売渡されており原告の所有に属さないから、原告は当事者適格を有しないと主張するが、成立に争いない甲第三号証の二ないし四および乙第四号証並びに証人水野源之助原告本人の各供述を総合すれば、原告が昭和十七年三月一日頃右土地を訴外川崎航空機工業株式会社に売渡す契約が締結されたが、その所有権移転登記手続は未了であつた事実が認められ右認定に反する原告本人尋問の結果はにわかに措信しがたい。その後昭和二十二年八月三日右土地を訴外安田滋に売渡したが登記簿上の名義が原告になつたままであつた事実は、原告自ら認めているところである。従つて訴外川崎航空機工業株式会社にせよ訴外安田滋にせよ第三者に対して未だ本件土地の所有者であることを主張できず、被告組合も又現在まで原告を右土地所有者たる組合員として扱つてきたことは本件弁論の全趣旨に徴し明らかであり、被告組合と原告との間においては、原告はなお右土地所有者であり且つ被告組合の組合員であると認められるので、原告に本件決議無効確認の訴の当事者適格のあることは明白である。よつて右主張は理由がない。

五、被告は本訴が訴権の乱用であると主張するが、原告の本訴請求は本件換地処分の認可が昭和二十七年十二月十五日になされた直後の翌二十八年一月七日に提起されたことは、本件訴訟記録上明白であり、訴提起の態様がもとより訴権の乱用と認められないのみならず仮りに本件決議無効が確定された結果爾後の法律関係が錯雑するとしても、それがため直ちに原告の権利主張を訴権の乱用と認めることはできない。よつて右主張も又失当である。

第二、本案に対する判断

一、被告組合が昭和二十七年七月二十五日被告組合総会において、原告主張通りの組合決議をなし、右決議に基き、同年九月一日被告において、岐阜県知事に対し、その認可の申請をなし、同知事が同年十二月十五日これを認可した各事実は当事者間に争いがなく、成立に争いない乙第一号証によれば、右認可は同年十二月十六日告示された事実が認められる。

二、そこで原告は右組合決議が、定足数に瑕疵があり無効であると主張するので判断するに、土地区劃整理組合のなす旧耕地整理法第六十一条第一号所定の換地処分決議の定足数については、同法第六十八条、第五〇条により、当該組合区域内の土地所有者総数の過半数以上が出席し、地区内総地積賃貸価格の各三分の二以上に当る土地所有者の同意を要すると規定され、本件組合規約には別段の定めがないので右規定によるものと解せられるところ、成立に争いない甲第十二号証、乙第二、第四、第五号証及び証人清水信一、同近藤正則、同水野源之助の各証言並びに被告組合代表者水野善吾の尋問の結果を総合すれば、被告組合の地区総地積は五十二万四百三十六坪一合八勺、総粗合員数は八百四十九人であつて、定足数は地積三十四万六千九百五十七坪五合、組合員数四百二十五人なるところ、本件組合決議には、代理人による出席も交えて、地積三十七万三千六百七十一坪一合九勺、組合員五百六十一人が出席し、右定足数を満すことは明らかである。ただ証人高橋市太郎及び原告本人各尋問の結果によれば、代理人による出席の場合の委任状の一部が、本件決議後に組合に提出されたとの、原告主張に副う証言があるが、前掲各証拠に照らし、にわかに措信しがたく、他に原告の主張を認めるに足る証拠はない。よつて原告の右主張は理由がない。

三、原告は、さらに原告所有の土地についての本件金銭清算の決議が違法であつて、右決議が無効であると主張するので判断するに、成立に争いのない乙第五号証によれば旧耕地整理法第三十条第一項、第二項を受ける被告組合規約第三十七条第四項に金銭清算の場合が例外的に定められているのであるがこれによると「換地を希望せざる者に対しては、換地を交付せず、評定価格を標準として、金銭をもつて、清算をすることを得る。」と定められている。しかして成立に争いない甲第三号証の一、二によれば、原告は別紙目録記載第一、第二の各土地について、換地交付を受けずに金銭清算をなすことを要請する旨の書面を被告組合に提出していた事実が認められ、更に前項掲記の各証拠によれば原告本人が本件組合総会に出席しておりながら、右決議内容に何ら異議を述べなかつた事実が認められる。なお右認定に反する原告本人の尋問の結果はたやすく信用できず、又同人の供述により成立の認められる甲第二号証の一ないし五によるも、後記認定の如く、仮換地の指定がなされた事実が認められず、以上の事実によれば、原告が、換地を希望せず本件金銭清算を承諾していたことは明らかであり、本件組合決議には原告主張のような瑕疵は認められず、右主張は理由がない。

三、原告は次に、被告組合は、原告に対して、土地使用区域の仮指定をなしたが、仮指定の決定に反する決定をなすには、先になされた仮換地の変更の手続をなし、しかる後に本換地決定をすべき義務があるにも拘わらず右義務を遵守しなかつた瑕疵があると主張するので、まず被告組合が原告に対して土地使用区域の仮指定をなしたかを判断するに、前記成立の認められる土地使用区域仮指定通知書(甲第二号証の一、二)によつても、原告に対して指定された旨の仮換地が記入されておらず、原告主張に副う原告本人尋問の結果も前記証人水野源之助の証言と対比してたやすく措信できない。他に原告主張を認めるに足る証拠はない。従つて原告は仮換地の指定を受けていた事実が認められないのであるから、原告主張はそもそも前提を欠き、その失当であることは明らかである。

四、よつて本件組合決議には、原告主張の如き瑕疵が何等認められないので、原告の本件組合決議無効確認の請求は理由がない。従つてその余の請求も右組合決議が有効なる以上、理由がないことに帰着するので、原告の請求をすべて棄却することとし、訴訟費用については、民事訴訟法第八十九条により原告の負担とすることとし、よつて主文の通り判決する。

(裁判官 村本晃 服部正明 上野精)

目録

第一 岐阜県稲葉郡鵜沼町字惣廻り一番の七

一、畑 一反九畝十六歩

第二 同所同番の八

一、畑 一反五畝六歩

第三 同町字川崎八千十番

一、宅地 三千九百九十三坪七合五勺

のうち別紙図面イ、ロ、ハ、ニ、チ、リ、イを結んだ部分千九百九十坪九合四勺

図<省略>

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